花粉症の漢方療法 その⑧
花粉症の漢方療法 その⑧
スギは日本原産の常緑針葉樹で、恐竜が生息していた時代に起源をもつ古い植物で、「傍らにはびこらず上へ進み上る木」、進木(すすぎ)を語源としています。
近年、スギ花粉症の七割にヒノキ花粉症を併発しているとされていることから、今後はその他の花粉にも反応するようになって、季節性のものが通年性になることが予想されます。
日本で、一九六〇年頃からスギ花粉症が急増したといわれており、スギの大規模植林や日本の都市化により、スギ花粉症の発症・悪化をさせていると指摘されています。
しかし私は、そのことよりも糖質過多によるストレス反応によって、臓器の機能低下を招き、体内に内湿《ないしつ》が溜まることが最も大きな要因であると考えています。
この内湿を取り除いてあげれば、花粉症の自覚症状は楽になりますので、まずはそこを目指して漢方治療をしています。
その内湿を取り除くには、体質と症状によって、熱証《ねっしょう》と寒証《かんしょう》の二つに分けて考えます。
例えば、内蔵機能が亢進して炎症症状がある場合は熱証で、反対に機能が低下してアトニー的症状があれば寒証と判断します。
熱証の者の特徴は、顔色が赤や黄色く、熱感や口渇があり、冬でも冷たいものを好み、暖房が苦手のタイプになります。
熱証の基本治療は、石膏《せっこう》、知母《ちも》、黄連《おうれん》、黄芩《おうごん》、柴胡《さいこ》などで清熱をします。
また、熱や炎症が消化管にはいり、便秘している場合には、大黄《だいおう》、芒硝《ぼうしょう》の排便作用で熱を逃がします。
慢性的な症状で、体を冷やすための水が不足している場合は麦門冬《ばくもんどう》、天門冬《てんもんどう》、地黄《じおう》を用います。
炎症を抑える能力が低下している時には芍薬《しゃくやく》、当帰《とうき》を使います。
血が老廃物などの炎症の原因を含んだまま滞る場合には桃仁《とうにん》などを用いて根本的治療をしなければなりません。
一方、寒証は、顔色が白や黒色で、悪寒があり、口渇の少ない者で、夏でも温かいものを好み、冷房が苦手のタイプになります。
寒証の基本治療は温めることですので、桂皮《けいひ》、乾姜《かんきょう》、呉茱萸《ごしゅゆ》、山椒《さんしょう》、附子《ぶし》などで深部を温め、麻黄《まおう》、細辛《さいしん》などで表部の血行をよくします。
また、慢性的な症状で、体を温める機能が低下している場合などは人参《にんじん》を、熱を運ぶ血の不足の場合は当帰《とうき》や、芍薬《しゃくやく》などを使います。
水の停滞で冷えている場合には、蒼朮《そうじゅつ》、茯苓《ぶくりょう》などを用いて根本的な治療をしなければなりません。
花粉症の漢方療法 その⑦
花粉症の漢方療法 その⑦
ヒトは生命を維持していくためには、外からエネルギーを取り込む必要があります。
消化管は、外から入ってくる食物、細菌、ウイルス、毒、化学薬品などの全てを異物と捉えていて、その異物が生命維持に必要なものか否かを識別しています。
それゆえ、細胞分裂の過程で1番最初に消化管が形成されますし、小腸の粘膜には多くの神経細胞が存在しています。
脳は消化管からの情報を最も優先して、他の臓器の神経細胞から来る情報は、後回しにする仕組みになっています。
特に、小腸の消化管神経細胞は高濃度の糖質に対しては、素早く反応して他の異物よりも最優先に脳に伝達します。
すると、脳では危険と判断して、危険回避の生理反応が起きます。
それが摂食性のストレス反応と言われるもので、このストレスを回避するために脳の情報量が増え、頭部の血流量が増加します。
それにより、脳温や脳圧が高まり頭部に位置する鼻、目、咽などの粘膜は腫脹して水分量の多い状態になります。
この状態の粘膜に花粉の物理的刺激が加わり、粘膜が水分であふれ出るようになったのが花粉症と考えています。
小腸粘膜上にある免疫機構を腸管免疫と言いますが、その腸管免疫が正常に機能していれば、消化管神経細胞の興奮を静めてストレス反応を解放してくれます。
また、IgE抗体も減少させることが知られていますが、腸管免疫が低下しているとストレス反応を抑えることが難しくなります。
総国民病と言われる花粉症だけでなく、その他のアレルギー疾患や、自己免疫疾患などもこのストレス反応に起因しているところが大きいと考えております。
ですから、花粉症の漢方薬は、消化管神経細胞に作用して粘膜上の炎症を沈める「本治《ほんち》」という根本的な改善と、症状を抑える「漂治《ひょうち》」の漢方薬を組み合わせて治療していかなければならなりません。
実際、花粉症の人に腸管免疫を調整する『証陽散EX《しょうようさんEX》』と、ストレス反応を鎮めて、水分代謝を調節する『五苓黄解《ごれいおうげ》』を併用した場合、明らかに『五苓黄解』単独で使用したときよりも高い効果が得られております。
花粉症で1番重要なことは、ストレス反応をなるべく起こさないような生活習慣を実施して、漢方薬による体質改善をすることにつきると思います。
花粉症という生体の反応は必ずしも悪いものではなく、健康のバロメーターと捉えることが大切なことと考えています。
花粉症の症状が重くなったりしたら、体が危険信号を送っているのだと考えて、生活習慣を改め、漢方療法で体のアンバランスを取り戻すようにすると良いでしょう。
花粉症の漢方療法 その⑥
花粉症の漢方療法 その⑥
現代社会は夜間活動の増加に伴って24時間、音や光などであふれています。
このような生活様式が、知らず知らずのうちに様々な体調の不調を起こしています。
花粉症もそのひとつといっても過言ではありません。
花粉症の最大の原因は糖質過剰摂取による摂食性のストレス反応と考えておりますが、他にもそれを増長する要因として、音や光などがあります。
地球上の動物や人間の目は光源を直接見るようには進化していなくて、全て反射した光でものを見るようにできています。
人間の水晶体は凸レンズですので、虫眼鏡で太陽の光を集める実験と同様に、太陽を直視すると網膜が焼けて破壊されてしまいます。
ですから弱い光源だとしても、直視してはいけない訳なのです。
しかし現代ではパソコン、スマートフォンなどからの光源を直視しています。
これらから発生するブルーライトとは、可視光線の中でも、最も波長が短く、強いエネルギーを持っています。
ブルーライトは脳を刺激して交感神経を亢進させる働きがありますので、自律神経のバランスが崩れ、花粉症だけではなく睡眠関係を中心とした身体の不調が起こります。
例えば、夜になると目がさえる、朝になると眠くなる、夜中に途中覚醒する、夢をよく見るなどの他に、瞳孔の拡大、日中の眠気、倦怠感、うつ傾向、手汗の増加、便秘、下痢、生理周期の乱れ、生理痛の悪化などが発生してきます。
特に春は交感神経が一年の内で最も刺激される時期で、太陽の高度が少しずつ高くなり、網膜に到達するブルーライトの量が増加してきます。
また年末年始から続いた過食や糖質過多も影響して、花粉症の素地ができ上った状態の時に、春のスギ花粉がやってくることで症状が強くなると思われます。
近年、発症が少ないといわれていた小児での花粉症や気管支喘息が増加していて、その重症度も悪化したとの報告があります。
今までは、「小児は免疫力が低いから、花粉症のような過剰免疫反応は少ない」と医療関係者は説明してきましたが、その説が怪しくなってきました。
花粉症、気管支喘息、アトピー性皮膚炎は、「甘いものが多いと治りません」と、言い続けていますが、残念なことに誰もが糖質の依存性からは脱却できていません。
漢方では、音や光によるストレス反応には、副交感神経を刺激する『黄連解毒湯《おうれんげどくとう》』や、肝臓に作用してイライラや怒りっぽい状態を解消する『航気散《こうきさん》』、などを用いて、自律神経の安定をはかることで対処ができます。
また鼻の穴の中には「オゾン化グリセリン」を塗るセルフケアをしていただいています。
花粉症の漢方療法 その⑤
花粉症の漢方療法 その⑤
霊長類が一億年ほど前に発生して、人類の祖先が現れたのが400~300万年前と推定されています。
人類が小麦や米などの穀類を食べ始めたのは、わずか1万年前の農耕文明以降で、それまでは採集、狩猟、漁労などによって生計を立てていました。
この時代までは、血糖値が上がるのは身の危険を感じた時だけで食べ物で血糖値が上がることは遺伝情報としてDNAに刻まれていませんでした。
ヒトも動物も、その長い歴史の大半を血糖値が上がることがなかったため血糖値を下げるホルモンはインスリンの一種類しか必要がなかったのです。
これに対して、天敵に襲われた時には直ぐに血糖値を上げてエネルギーを産生しなければなりませんので、血糖値を上げるホルモンは進化して4種類も存在しています。
それがグルカゴン、アドレナリン、コルチゾール、成長ホルモンなどです。
よく糖質を摂らないと脳が働かなくなると言われていますが野生動物は糖質がゼロの食物でも、脂肪や蛋白質などの代謝によってケトン体という物質を作り、それをエネルギーにできる仕組みを利用しています。
人間も動物と同様の仕組みを持っていて、
厳しい環境下でも生き抜いてこられた訳なのです。
しかし、産業革命が18世紀半ばから始まり、食物の精製技術が飛躍的に進歩して純度の高い小麦、米、砂糖、アルコールといったものが作られるようになると、従来の食物ではありえないほどの吸収速度で急激な血糖値の上昇を引き起こすこととなりました。
元来は天然の食物であるものが、化学物質へと変化していったのです。
ヒトが身に危険を感じた時にしか血糖値の上昇が起こらなかったことが、日常に起こるようになったわけで身体にとっては想定外のことでした。
急速な血糖値の上昇が起こると、襲われた時と同様に交感神経の亢進が起きてしまいます。
これが、摂食性のストレス反応と言われるものになります。
このストレス反応が起こると、抗ストレスホルモンのステロイドホルモンなどが分泌され頭部血流量が増加して脳動脈圧が高くなります。
これにより頭部に位置する鼻、目、咽などの粘膜に腫脹が起きて、花粉などの物理的刺激で粘膜から水分があふれ出し、鼻水、くしゃみ、涙、痰などが発生します。
また毛細血管は、うっ血して血流量が増え充血や、粘膜が腫れて鼻が詰まるといった現象も発生します。
花粉症の漢方療法 その④
花粉症の漢方療法 その④
今や現代病と言われる花粉症はヒト特有のものと思われてきました。
しかし近年ではペットや、野生動物のサルにも花粉症と思われる事例が数多く報告されるようになってきています。
本来、野生動物は生まれつき花粉が飛び回る森の中に住んでいますので花粉でアレルギー症状を起こすことは考えられません。
例外として、人里に降りてきたサルや人間に飼われている動物は花粉症になる例が増えてきています。
サルはヒトに近い類人猿ですので人間と同じ生活環境になれば当然、花粉症になるサルが現れて人間と同じ病気にかかりやすくなることは想像がつきます。
サルは本来雑食で木の実、芽、葉、茎、根や、きのこ、ワラビ、タケノコなどの山菜、渋柿、昆虫、小動物、場合によるとサル同士の共食いなどの食生活をしています。
また、野生動物は決して肥満体になることはありません。
なぜなら野生動物にとって肥満になって俊敏性が失われると天敵から襲われた時に逃げ遅れてしまいますので、肥満イコール死に直結するからです。
通常、野生動物は天敵に襲われたり何日も食べ物にありつけなかったり栄養のないようなものを食べたりと、生きていくのに過酷な環境で生活しています。
サルは、人間が品種改良した炭水化物の豊富な作物を腹一杯食べることができるようになると、森に住むより人里に降りてきた方が簡単に美味しい餌にありつけることを学習してしまうので森に戻らなくなってしまいます。
世界的に、動物園ではサルにバナナを与えない方針をとっているのは、人間向けに品種改良したフルーツはサルにとって糖分が多すぎて健康被害がでることが明らかになってきたからです。
サルの花粉症対策は、餌の改善が唯一の方法ですが人間も薬に頼るだけでなく糖質過多を減らす工夫をしなければなりません。
動物はストレスを受けると、それに対抗して副腎からアドレナリンやステロイドホルモンなどが出て様々なストレス反応を現します。
糖質は、摂食性のストレス反応を日常的に起こしていますが、誰もがそのことに気がついていない点に危険性をはらんでいます。
他にも、摂食性のストレス反応を起こしているものに化学薬品、ニコチン、カフェイン、アルコールなどがありますが花粉症のクスリ自体もストレス反応を起こすものになり得ます。
サルの花粉症のことからも『花粉症の根本的原因は花粉そのものによるアレルギー反応ではなく、摂食性のストレス反応によるものである』と、近い将来言われる日が来るものと考えています。
花粉症の漢方療法 その③
花粉症の漢方療法 その③
西洋医学ではスギ花粉症の発生するメカニズムを次の様に説明してきました。
「スギ花粉に対してのIgE抗体の閾値《いきち》というキャパシティに個人差があり、その閾値を超えると症状が出る」。
いわゆる「バケツ(もしくはコップ)理論」というもので、生まれ持ったバケツの大きさを超える花粉が入ってくるとバケツからあふれて発症すると言うものです。
これに対して「舌下免疫療法」は、スギ花粉を含む薬を舌の下に、毎日少量を3~5年間にわたり継続して服用する治療法で、バケツ理論に反するような治療法になります。
また、子供の時にアレルギー原因物質の少ないきれいな環境で育つとアレルギー疾患になりやすく、積極的に牛、馬、ペットなどの動物と接触させた方が花粉症などにかからないという逆の理論もあります。
スギ花粉に対するIgE抗体が陽性でもスギ花粉症でない人がいる一方で、スギ花粉のIgE抗体が少ない人でもスギ花粉症の人がいるのは、バケツ理論やアレルギー理論では説明が付きません。
私は、スギ花粉は一つの引き金にしか過ぎず根本的な原因は交感神経の亢進により、粘膜上の炎症が起きているものと考えた方が妥当であると思っています。
その交感神経の亢進を日常的に起こしている最大の原因は糖質であると考えています。
人類が誕生した当初は他の弱小動物と同様に、大型肉食獣に襲われて喰われる側にいたと考えられています。
野生動物は常に「喰うか喰われるか」の世界にあり身の危険を感じたときには交感神経が異常に亢進して「アドレナリン」を放出して身を守るような働きをします。
その時に必要なエネルギー源は肝臓や筋肉に蓄えられている「グリコーゲン」を「ブドウ糖」に変えて血液中に放出して血糖値を上昇させることでまかなっています。
野生動物は緊急時以外に血糖値が上昇することはなく、血糖値を下げるインスリンは基礎分泌量以上出ることはありえませんでした。
そんな野生動物が糖質の多い農作物や果物などを食べると血糖値の急上昇が起きて身体は襲われた時と同じように交感神経の亢進が起きてしまいます。
この事は、野生動物だけに言えることではなく人間でも同様のことが起きていて、それが「摂食性ストレス反応」と言うものになります。
人類の農耕技術や精製技術の進歩発展には目を見張るものがありますが、その反面、摂りすぎると身体にとって有害になるものも生まれてしまいました。
その代表格が糖質を多く含む食品で、それらは交感神経を亢進させて血糖値を急上昇させることで体に強いストレス反応を起こさせている最大の原因物質になっていると思われます。
花粉症の漢方療法 その②
花粉症の漢方療法 その②
花粉症の漢方治療は、症状そのものを抑える治療が中心になりがちですが花粉症になりやすい体質を改善して病気になりにくい体を作ることが理想です。
東洋医学では、花粉症の症状を体内の水分バランスの異常と捉えて体内で発生した内湿《ないしつ》を取り除くための漢方薬を使い分けます。
花粉症の漢方薬としてよく用いられる処方としては鼻水、くしゃみ、などの適応がある『小青竜湯《しょうせいりゅとう》』を中心に処方されることが多いかと思います。
『小青竜湯』を花粉症の基本処方にして、体質により熱証《ねっしょう》もしくは寒証《かんしょう》の漢方薬を併用します。
中には熱証と寒証の混在した寒熱錯雑証《かんねつさくざつしょう》を呈するものも存在しています。
私の感覚ですが、花粉症の患者さんの50%が寒証で20%が熱証で残りが寒熱錯雑証と考えています。
小青竜湯は寒証に使う処方で、熱証の体質には少々使いづらい面もありますが、寒熱錯雑証には使えると考えていますので併せて70%以上の方には有効と考えています。
寒証に使う漢方薬としては麻黄附子細辛湯《まおうぶしさいしんとう》、葛根湯《かっこんとう》、葛根湯加川芎辛夷《かっこんとうかせんきゅうしんい》、玉屏風散《ぎょくへいふうさん》などがあります。
また、慢性的な症状で体を温める機能が低下している場合などは人参湯《にんじんとう》、熱を運ぶ血の不足の場合は当帰芍薬散《とうきしゃくやくさん》、水の停滞で冷えている場合には五苓散《ごれいさん》や苓桂朮甘湯《りょうけいじゅつかんとう》、冷えが強いものには附子《ぶし》などを用いて根本的な治療をしなければなりません。
一方、熱証の基本治療は冷やすことですので、急性の炎症や精神的な興奮による熱感などには麻杏甘石湯《まきょうかんせきとう》、清上防風湯《せいじょうぼうふうとう》、辛夷清肺湯《しんいせいはいとう》、桔梗石膏《ききょうせっこう》などで清熱をします。
また熱や炎症が消化管にはいり便秘している場合には大黄甘草湯《だいおうかんぞうとう》や桃核承気湯《とうかくじょうきとう》の排便作用で熱を逃がします。
慢性的な症状で、体を冷やすための水が不足している場合は麦門冬湯《ばくもんどうとう》、炎症を抑える能力が低下している時には当帰芍薬散《とうきしゃくやくさん》、血が老廃物などの炎症の原因を含んだまま滞る場合には桂枝茯苓丸《けいしぶくりょうがん》などを用いて根本的治療をします。
春は花粉症やカゼの流行と受験が重なりますが、漢方薬は眠くならないし頭がさえて勉強の集中力も増しますので受験生にとってはうってつけの療法といえます。