大原守民の漢方通信

漢方の考え方を紹介するブログです

男のからだ

  • 男は何歳が絶頂期⁉

現存する中国最古の医学書黄帝内経《こうていだいけい》によると、女性のからだは7の倍数で変化が訪れ28歳がピークになりますが、男性は8の倍数の32歳が最も気力と体力に充実を感じるときで、その後は徐々に衰えていくと書かれています。

 

  • 五臓の老化がキーワード

この医学書には、人間は100歳まで生きられるが50歳ごろには肝《かん》が衰え始め、それにより視力が低下して60歳になると心《しん》が衰えて笑いが少なくなり物事を悲観的に考えるようになり、70歳を過ぎると脾《ひ》が衰え皮膚のしわがふえて、80歳になると肺《はい》が衰え思考が低下して物忘れがひどくなり、90歳になると五臓の最後の腎《じん》が衰えて全身の運気が低下し、100歳になるとすべてが虚となり抜け殻になるといっています。

 

東洋医学でいう腎《じん》とは、腎臓のことだけを指すのではなく腎臓、副腎、泌尿器、生殖器、ホルモン、免疫、脳下垂体の働き全般を指しています。
腎は生命の根源を支えるもので、そこに生命エネルギー源の腎精《じんせい》が宿っている場所と捉えています。

 

もし腎精が不足すれば、腎虚《じんきょ》という状態になり性機能の低下、泌尿器の機能低下、歯や骨の衰え、体力の低下、疲れやすい、物忘れ、白髪、抜け毛、肥満などの老化現象が進むことになります。

 

  • 生活習慣が腎精を奪う

最近では、若腎虚《わかじんきょ》という、まだ若いのに腎虚が始まる人が多くみられますがストレスや人間関係の悩み、過剰な労働、不規則な食生活、間違った食生活などが原因していると考えられます。

 

65歳男性。このところ急速に老化が進み疲れがとれなくて、気力の低下が激しい。
その他、尿の出が悪いのにもかかわらず急に我慢が出来なくなることがある、ちょっと走っただけでも苦しくなる、ほかにも耳鳴り、腰痛など数えたらきりがないほどの症状があります。

 

腎虚漢方薬『知柏地黄丸《ちばくじおうがん》』と腎精を補う『鹿参仙《ろくじんせん》』を用いたところ、よく眠れるようになり、疲れがとれて気力が戻ってきました。
尿もだいぶ勢いが出てきて我慢もできるようになってきました。

 

  • 今からでも遅くない

養生としてタバコを減らして糖質を制限していただいたのが相乗的な効果が発揮されたものと考えます。
男性のからだは女性と違い月経周期という健康のバロメーターがないので、体調の変化に気が付くのが遅れがちになりますので漢方薬による早めの対策が望まれます。

カゼの漢方療法その①

  • カゼの原因のほとんどがウイルス感染

カゼの原因の90%以上がウイルスによることから、一般にカゼと言っているのは、ウイルスによる上気道感染症を指します。
また、ウイルスによる消化管感染症は、「お腹の風邪」などと分けて呼んでいます。
カゼの病原となるウイルスまたは細菌が特定できた場合は、それぞれの疾患名で呼び、病原がインフルエンザウイルスによることが検査で特定されれば、一般のカゼとは別に「インフルエンザ」と呼ばれることになります。

 

  • 西洋薬でカゼが治ることはない

西洋医学では症状を緩和する対症療法を採用し、総合感冒薬や解熱剤、咳止めなどの薬を使用し、インフルエンザには抗インフルエンザ薬を使うことになります。
今まで頻繁に使用していた抗生物質はウイルスには効果がなく、安易な投与は耐性菌の出現を助長するとして、今では厚生労働省は投与しないことを推奨しているのが現状です。
西洋医学のカゼに対する考え方で、熱が上がれば解熱剤で下げて、熱が下がれば改善したととらえていますが、東洋医学の考えでは、発熱は病気と闘っている生体の反応と捉え、熱を無理に下げることはしません。
これは、カゼの初期から熱を下げると、体がウイルスと戦うのを止めてしまって、逆に病気を長引かせてしまう危険があるという考えによるもので、実際にウイルスは38℃以上で活性が停止するとされています。
また抗インフルエンザ薬を使うと十分な免疫が獲得できないため、毎年のように罹りやすく、薬剤耐性ウイルスを作ることにもなってしまいます。

 

カゼの漢方薬と言えば『葛根湯《かっこんとう》』が有名ですが、この処方の中心的な役割を果たすのが『麻黄《まおう》』という生薬になります。
この麻黄の働きに交感神経を亢進させて、肺を温めて、深部体温を上昇させ、発汗をうながす作用があります。
初期のカゼで、発熱があるのに発汗ができなくて、邪気《じゃき》がこもっている場合には、発汗とともに邪気を追い出すことで、速やかに症状の改善が見られます。
身体は、ウイルスが破壊されると、それ以上体温を上げる必要が無いので、自然と汗腺を開き、汗を出して体温を下げていきます。

 

  • 安易に西洋薬を使うのは危険

カゼは下手をすれば、命をも奪いかねない急性の疾患ですので、深部体温を上昇させて免疫機能を亢進させることが大切ですが、脳だけは高熱から守ってあげなければいけないので、額や首を冷やしたりして物理的に頭部の熱を取ってあげればよいのです。
解熱剤のように全身に作用させて一時的に熱を下げても、ウイルスは死んでいないので再び増殖することさえあります。

まずはそのことを理解しておくことが大切です。

 

ヒポクラテスと東洋医学の考えは同じ

 

  • 化学薬品は救急薬:

西洋医学と化学薬品は戦場医学として発達した側面があり、基本的には緊急時の医療ですので、応急処置が必要な場面で最も効果を発揮する医療になります。
これらの化学薬品は作用が強く緊急時に絶大な効果を発揮するのも事実です。
しかし、化学薬品は解毒や排泄などにからだに余計な負担をかけてしまいますので、緊急時の短期間の使用に抑えることが本来の役割と考えています。
古代ギリシアヒポクラテスは「医学の父」とよばれ西洋医学に大きな影響を与えた医者で、医術の基本は「からだに自然に備わった治癒力を高めること」であると説いています。

 

  • 薬食同源とは: 

東洋医学の考えも全く同じで、病気はすべて自分の体が治しているのであって、薬が治しているのではないと考えます。
その点漢方薬は、食事の延長線上にあって、からだにエネルギーや栄養を与え、自律神経を整えたり、悪いものを排泄させたり、気・血・水の巡りを良くしたりして、からだの回復を促すために使うのが基本的な考えになります。
ですから、漢方家の役割は身体が最も望んでいることを探り当て、そのための治す力のお手伝いになる漢方処方や養生法などを用いて、身体を本来あるべき状態まで改善することに他なりません。

 

  • 病名漢方とは:

この体の治す力を引き出すためには、その人の体質に合った漢方薬や養生を指導しなければなりませんが、体質を無視した病名で漢方処方を決める「病名漢方」と言われている西洋医学的な考えで、漢方薬を捉えていては体質に合った漢方薬を差し上げることはできません。

 

  • 体質漢方とは:

体質に基づいて処方を決める方法を私は「体質漢方」と命名しています。
「体質漢方」による処方はその人の体調をよくするものですので、「病名漢方」のように、体質に合わなくて副作用が出たり、症状が悪化したりすることがありません。
人間も自然界で生かされているひとつの生命体ですので体も自然界と連動しています。

ですから自然哲学に則った漢方薬を体質に合わせて用いる「体質漢方」が人間には負担のかからない最良の治療法と言うことができるものと考えております。